影との戦い

Behind the Veil

WRAITH:THE OBLIVION

 「WRAITH:The Oblivion」は、米国White Wolf社が「Storyteller」シリーズの第四作と発表したホラー・ロールプレイング・ゲームです。「Vampire」から連綿とつらなる「World of Darkness」(暗黒の世界)の世界観を受け継いだこのゲームは、現代世界の裏側で、誰にも見られることなく暮らす幽霊(レイス)たちの物語を扱っています。

 伝統的なゴースト・ストーリーから、冥界の権力を巡る争闘まで、さまざまな要素を包含したこの作品は、他の四つのシリーズ作品から見ても非常にユニークなゲームといえます。ひとりのキャラクターに事実上二人のプレイヤーがつくというシステムは、非常に画期的なもので、プレイしにくさを増したという欠点はあるにせよ、想念で死後の生を生きる幽霊たちの心の葛藤を見事に活写できるという点で評価できるものだと思います。

 それでは、現世と来世の狭間にたゆたう冥界へあなたたちをいざないましょう…。


Rest In Peace...?

Our Afterlife

 レイスたちは全員が死んでいます。つまり死霊です。なので、当然死因がなければなりません。彼らの幽霊としての悲惨な暮らしは、まず生者の世界(Skinlandといいます)を去らなければ始まりません。

 死因はそれこそ無数にあります。病死、老衰、事故死、刺殺、毒殺、轢殺、殴殺、転落死、溺死、縊死、ガス中毒死、爆死、過労死…。新聞の三面欄を開けばいくらでも例が載っています。もしかしたら、自分がなぜ死んだのかわからないかもしれませんが…いずれにせよ、好きな死に方を選んでください。ただ注意してください。死因は最も大きな枷として、後々まであなたにつきまとうことになります。  さあ、あなたは死にました!

 闇。まずは闇が訪れます。目を開けているのかどうかすらわからない闇。しばらくすると、めくるめく光があなたに迫ってきます。そして無数のヴィジョンがあなたを襲い、響き渡るいずこからかの声の中で、あなたは自分という存在が粉々になっていくのをかんじることでしょう。  突然、一条の光線があなたを吹き飛ばします。次の瞬間、あなたは死んだはずの場所にいる自分を発見します。たぶん、倒れた姿で。体に触れれば、そこに体があります。確かに死んだはずなのに…。

 困惑するあなたの前に、ひとりのフードをかぶった暗い人影がいつの間にか立っています。謎めいたその人物の顔はフードに隠されてよく見えません。彼はあなたに何か告げたはずですが、何だったかは冷たい恐怖に閉ざされて思い出すことはできません。そして、またいつの間にかその人物は姿を消してしまいます。こうして独り取り残されたあなたは、自分が死に、そして自分のいる場所が死者の世界であることを薄々感じ取ることになるでしょう。
 頭の中で声が響きます。すべてを深淵の忘却の闇へ引きずり込もうとする悪魔の声が。それにあらがいながら、あなたは、かつて自分が生きていた街の中をそぞろ歩き始めます…。

* * *

 レイスたちの永い永い道のりはすべてこうして始まります。
 辺りに広がるのは、生きていた頃と寸分たがわない街の風景です。ただ、ひどく色あせ、荒涼としたカラーで彩られています。あの建物はあんなに古びていただろうか…?あの車はまるで中古品のようだ…、あの木はあんなに枯れそうだっただろうか…?おかしい、あの教会はもう取り壊されたはずなのに…。
 そして、街を行き交う人々は、色あせた風景の中で輝くようなオーラを放っています。それはあなたにはないもの、なくなってしまったもの、生命のエネルギーであることが何となくわかります。

 この奇妙な光景から、あなたはようやくそこが元の世界とは違う場所であることに気づきます。そこは「幽界」(Shadowland)。生者の世界を鏡のように映し、そこに滅びと郷愁の色を加味した狭間の領域なのです。そこでは、すべての事物に衰えと崩壊の色が濃く浮き出ています。
 幽界では、死者は生者の姿を光り輝く姿として見ることができます。しかし、彼らに触れることはできませんし、彼らの方からあなたを見ることはできません。マジックミラーのような「」(とばり:Shroud)と呼ばれる神秘的な障壁がそれを阻んでいるからです。たとえ、無気力そうな人間であっても、生きているというだけで輝いています。それにしても、死んでからしか生の輝きを知ることができないとは!この世界の創造主はとんでもなく意地が悪かったのでしょう。

 通りすがりの生者があなたにぶつかりました!鈍い衝撃とともに、彼のぶつかった肩が霧のようにぼやけ、その通行人は何事もなかったかのように通り過ぎていきます。もやになった肩はすぐに元に戻ってしまいます。
 通り抜けた?! 驚愕したあなたは、思わずふらふらと車道に出てしまいます。次の瞬間、突っ込んできた車があなたに衝突します。激しいショック。あなたの体は全身がもやのような白い不定形の姿に変じてしまいます。もちろん、車はそのまま走っていってしまいます。そのまま、あなたは近くにあった壁によりかかろうとしますが…何もないかのように、これまた通り抜けてしまいました。当惑しながらも、しばらく裏路地で休んでいると、やがて霧のような姿が凝集して再びあなた自身の体になりました。どうやら、強い衝撃を受けるとこの霊体は一時的にぼやけてしまうようなのです。  あなたは立ち上がると、またどこへともなく歩き始めます…。

 この世界では、すべては魂のエネルギーでできています。一見すると肉体があるようですが、レイスはもはや魂だけでできている存在です。ですから、たとえ生者にぶつかっても、障害物にぶつかっても、傷を負うわけではありません。
 ただし、生前の記憶のためか、普通の状態(有形体Corporeal)では、生者の国の障害物をすり抜けることはできません。強い衝撃を受け、魂エネルギーが一時的に弱まって人の姿をとれなくなった時(無形体Incorporeal)に限り、幽霊らしく生者の国の障害物を自由自在に通り抜けることができるだけなのです。つまり、普通に幽霊をやってる分には、生きている時とほとんどかわらない感覚で暮らせるのです。

 もちろん、あなただけが死人ではありません。冥界(Underworld)には無数のレイスたちが住んでいます。あなたも含めてレイスには寿命などというものはありませんから(だってもう死んでます!)、それこそ何百年も昔に死んだ幽霊がまだ暮らしていたって何の不思議もないのです。
 遅かれ早かれ、あなたは冥界で他のレイスに出会うことになるでしょう。それが友好的なものになるか、暴力的なものになるかは、運次第といったところです。ともかくも、冥界について何もわからないあなたは、どこかで死者の生活(おかしな言葉ですが)に必要な知識を仕入れねばなりません。

 では、一番大事な知識とは何でしょうか?
 それは、幽界だけが冥界ではないこと、この冥界は乱世にあるということ、そして最大の大敵は自分自身である、ということです。


深淵の恐怖

Into the Abyss

 幽界は、実のところ、冥界全体からすれば最も表層にある部分でしかありません。幽界で、帷を挟んで、冥界は生者の国と相対しているわけです。そして、ほとんどのレイスはここから離れようとしません。生前に愛したものや心残りの源が“見える”のは幽界ですから当然ですが。  幽界の下(概念的に下、というだけですが)には茫漠とした暗黒の大洋が広がっています。静かな海ではありません。そこは荒れ狂う嵐に永遠に席巻されている非常に危険な領域です。そのところどころに“間道”(Byway)と呼ばれる航路があり、“渡し守”(Ferrymen)という謎めいた冥界の住人だけが正しく船を駆ることができるのです。さらに、ごうごうとうなりをあげる大洋の深淵には、恐ろしい冥界の怪物たちが数多く潜んでいるのです。このため、レイスたちはよほどのことが無い限り、幽界から離れることはありません。

 この嵐の大洋を“大嵐洋”(Tempest)と呼びます。大嵐洋の大きさは誰も知りません。レイスたちが知り得るのは、そのところどころに孤島のように安定した領域が散在しているということだけです。そうした領域はそれぞれ「暗黒王国」(Dark Kingdoms)と呼ばれ、幽界のどこか一地域に通じています。最も有名な暗黒王国は「鋼の暗黒王国」スティギアです。スティギアは、欧米圏(ヨーロッパと北米)の幽界に通じており、西洋人のレイスたちを統括しています。ちなみに、東洋圏は「翡翠の暗黒王国黄泉によって統治されています。

 大嵐洋のさらに下には、真に勇敢な(あるいは無謀な)レイスしか入ろうとしない絶対暗黒の領域が存在しています。“迷宮”(Labyrinth)と呼ばれるこの謎めいた領域には、破滅の力に染まった悪しき幽霊“悪霊”(Spectre)が無数に住んでおり、最深部に存在するという破滅の力“忘却”(The Oblivion)の根源を崇めていると言われています。ここに踏み入って悪霊を滅ぼすことを任務としているレイスを「凶狩り」(まがつがり:Doomslayer)と呼びます。


ヒエラルキー

The Hierarchy, the Dark Kingdom of Steel

 「Wraith」で主な舞台に設定されているのが、冥界の中でも「鋼の暗黒王国」スティギアの支配する一帯、つまり、欧米地域です。では、このスティギアとはどんな国なのか?
 それは一言で言えば、恐怖政治と奴隷制度が横行する専制帝国です。

 「ヒエラルキー」(Hierarchy:身分階層の意)と呼ばれるこの帝国は、大嵐洋に浮かぶスティギア島に座す七人の「死の王」(Deathlords)によって支配されており、すべてのレイスはいずれかの死の王の下につかなければなりません。それぞれの死の王の勢力が「軍団」(Legion)で、王らの性格を反映した名と性格を持っているのです。
 本来、ヒエラルキーは、生者の世界がローマ時代だった時に、冥界を何百年かに一度襲う、大規模な破滅の力の嵐「大渦巻」(Maelstrom)から幽霊たちを守るべく、偉大な指導者カロン(Charon)によって創設された組織でした。しかし、第五の大渦巻が発生した第二次世界大戦の折、原爆の爆発とともに生まれた破滅の怪物と単身戦って皇帝カロンが行方不明になって以来、彼の腹心であった死の王らによって支配されてしまったのです。もともとカロンの有能なブレーンだった死の王たちですが、権力は魔物だとはよくいったもので、皇帝の失踪後あっという間に力に耽溺してしまい、その主導権争いは、冥界に深刻な悪影響を与えています。

 スティギアの支配圏にある幽界も、ヒエラルキーの体制に当然組み込まれています。
 幽界には、それぞれの都市ごとに「死人街」(しびとがい:Necropolis)と呼ばれるレイスの集まる地域があり、その中心に「城塞」(Citadel)と呼ばれる政庁が設けられています。この城塞を治めるのが城主評議会です。城主(Anacreon)たちは、その死人街における七つの軍団それぞれの支部長であり、帝国から統治を委任されています。また、彼らには補佐官である「上将」(Overlord)がつきます。

 死人街は、いくつかの「版図」(Domain)に区分けされていて、そこを城主に任命された「将軍」(Marshal)たちが治めています。城塞から遠く、自治権の強い領地には特別に「城代」(Regent)が派遣されることもあります。

 こうした領地に、レイスたちは暮らしているわけですが、彼ら普通の幽霊たちは全員が「軍団兵」(Legionnaire)と見なされ、自分たちの中から選ばれた「百卒長」(Centurion)を隊長として、細かく隊分けされています。軍団兵は平時は好きにしていてかまいませんが、ひとたび召集がかかったら、すぐに集まって任務につかなければなりません。

 ヒエラルキーは、スティギア帝国で流通している貨幣「オボルス」(Obolus)も発行しています。この貨幣は妙なうめき声をあげたり、白い霧を吹き出したりする不気味な代物です。

 貨幣?そういえば、冥界のものはすべて魂のエネルギーだけでできているはずです。貨幣やいろいろな物品はどうやって作られているのでしょう?
 ここがヒエラルキーが怖れられているひとつの理由があります。冥界で使われている物品は、すべて魂を精錬してこねあげたものなのです。そしてそれを作っているのがヒエラルキーです。
 まれに、極めて強い愛着が付与されたために、生者の国で壊れても、その感情エネルギーによって冥界に転生した物品もあります(“遺品”Relicsと呼びます)。が、ほとんどの物品は帝国の奴隷狩りに捕らえられ、スティギアの鍛冶工場に送られて、品物に変えられてしまった哀れなレイスたちの成れの果てです。オボルス硬貨のうめき声も、彼らの無念の思いの具現化したものなのです。特に、魂を凝集して作られた精巧な鋼は「魂鋼」(Soulsteel)と呼ばれ、本来は不死であるレイスすらも破滅させる強烈な力を持っています。

 もうわかりますね?これは、他人事ではないのです。帝国に住むレイスは、いつ何時役立たずの烙印を押されて、工場送りにされてしまうともしれません。そうならないためには、必死で忠勤に励んで上司に認めてもらうか、あるいは帝国に反逆して逃げ出すほかないのです。失敗すれば、即ネジその他もろもろの品物に“鍛えられ”てしまうでしょう。

 かくして、酷薄な死の王らの苛烈な支配もあいまって、帝国には無法者(Renegade)が多発しています。彼らを弾圧するために帝国はますます恐怖政治を強め、そのことが更なる反逆者の発生を助長しています。各地で無法者たちによるテロが多発し、地下に潜ったレジスタンスは突然襲ってくる軍団と激戦を繰り広げています。こうして、ヒエラルキーの領域では、常に争いが絶えない乱世になっているのです。


昇天、あるいは堕地獄に至る永き道

Roads to Heaven or Hell

 レイスたちは実にいろいろな死に方をして、冥界へとやってきます。しかし共通していることがひとつあります。それは「生者の国への未練がある」ということです。
 本来、人は死ぬとすぐさま“超越”(Transcendance)してどこか高次の次元界へ去ってしまうか、永遠の破滅と忘却の深淵に落ちてしまうか、どちらかしかありません。しかし、レイスはそのどちらにも到達できず、宙ぶらりんな形で冥界に“引っかかって”しまいました。そうなってしまった原因は、彼らが死ぬときに何か思い残すことがあったことなのです。
 その未練の心が枷(かせ)となって、レイスは現世とも来世ともつかぬ冥界に閉じこめられてしまいました。ですから、レイスの究極的な目標は、自分を捕らえている未練を消して彼岸(Far Shore)へ超越して去ることだと太古より語り伝えられてきました。
 ヒエラルキーの当局がどれほど夢物語にすぎないと否定しても、彼岸への超越を目指す者たちは減りません。独自の信念のもとカルト集団を作っている“異端者”(Heretics)たちまでいます。

 この未練は、ゲーム上ではそのものずばり“”(かせ:Fetter)と呼ばれます。
 枷は、レイスがその死後の生の中で解決していかなければならない目標です。レイスたちは意識的であれ無意識的であれ、この枷の指示する目標に向かって動いていきます。例えば「生前の家族を守る」とか「ある品物を見つけだす」とか「未完成の作品を完成させる」など。枷はひとつだけではありません。レイスたちはいくつもいくつも思い残した未練を解決していかなければならないのです。そして、その道のりでは、自分が幽霊であるということ、生者の世界にもはや触れることはできないということが、巨大な障害となって立ちふさがることでしょう。
 そして、永い永い探求の果てに枷がすべて消えた時、レイスはそれまでの行いと自分自身の魂の質について最後の審判を受けることになるといわれています。その結果によって、彼岸への超越か、“忘却”への消滅かが決まることでしょう…。

 しかし、安らかな超越を阻むのは、何も外部の障害ばかりではありません。最大の敵はレイスの内側にいるのです。


シャドウ…もうひとりの自分

The Dark Twin

 どんな温厚な人でも、心に闇を飼っているものです。それはふとしたきっかけで表に現れ、その人物にとって破滅的な結果をもたらすこともあります。
 経験がありませんか?平穏に暮らしていくために暗い衝動や感情を無意識に抑えている自分に、ふと呼びかけてくる悪魔の声を聞くことは?眠りにつく前に、偶然一人きりになった時に、知人が視界に入った時に…。
 自分の中にいるもうひとりの自分。抑圧し続けてきた“闇の双子”。それを心理学者ユングは“シャドウ”(Shadow)と呼びました。これが「Wraith」の最大のテーマです。

 レイスは肉体の束縛から解き放たれた存在です。彼らは魂だけでできているからです。それは同時に、魂が本来持っている感情のパワーが剥き出しになったということも意味しています。それゆえ、レイスたちは生者に比べて非常に感情に左右されやすくなっています。そして何より、彼らの持つ特殊能力(【秘力】Arcanosといいます)の多くは、その感情の爆発から得られるエネルギー(〈パトス〉Pathosと呼びます)を源としているのです。ゲーム上では〈情念〉(Passion)というパラメータで表されているレイスの感情は、枷と強く関連する内容を持つこともあれば、冥界での人間関係(幽霊関係?)をもとにした内容なこともあります。

 が、それは【シャドウ】にもいえることなのです。生前、【シャドウ】はそれほど強い力を持つことはできません。しかし、死と同時に肉のくびきを脱した【シャドウ】は、感情の存在であるレイスに生前よりもはるかに大きな力を及ぼすようになり、時には破滅へと追いやる脅威となるのです。  それはどのようにしてなのでしょうか?

 【シャドウ】は一個の人格を完全に有しているのですが、普段、表の人格(【プシケ】Psycheと呼びます)に隠れて、レイスの行動を直接に左右することはありません。が、いったんレイスが何らかの葛藤を迫られる事態に陥ると、【シャドウ】はレイスの中で暗い誘惑をささやき始めます。それは、表の人格が普段思っている感情とはまるで正反対の内容です。
 例えば、友人をこよなく愛するレイスが、その友人から反対された時、彼への憎悪が心の奥底で沸き上がるのを感じます。生前の恋人を守ろうと心に誓ったレイスは、その恋人が別の異性と仲良くしているのを見て、抗いがたい怒りに見舞われます。それらは皆、【シャドウ】の統べる〈暗き情念〉(Dark Passion)。文字通り、暗い情念です。
 表があれば、必ず裏がある。感情もそうです。【シャドウ】はその裏の部分を体現しているのです。

 もし、レイスが少しでもそうした声に耳を傾けてしまうと、〈憂悶〉(Angst)と呼ばれる【シャドウ】のパワーが増大します。次第に次第に暗い衝動が表に現れ始めるのです。
 困ったことに、【シャドウ】の力を借りることに同意しても、レイスの力は一時的に上昇します。困難な事態でわらをもつかむ思いのレイスに対して、【シャドウ】は自分の力を借りれば危機を脱出できるとささやきかけてきます。その力を借りて危機を脱出しても、その代償に、【シャドウ】が心の中に占める割合は大きくなってしまいます。

 やがて、一定量の〈憂悶〉がたまると、【シャドウ】は一気に【プシケ】に対して逆襲に出ます。この精神戦闘に【プシケ】が敗北すると、【シャドウ】は一時的にレイスの体を乗っ取ってしまいます。いつもの人格とは別の邪悪な人格が顕現してしまうのです。それによって起こる結果は破滅的なものでしょう。
 そして何度も何度も【シャドウ】に乗っ取られていくにつれ、レイスの魂は破滅の力〈忘却〉へとひかれていきます。そのまま流されていけば、遠からず【プシケ】と【シャドウ】の立場がひっくり返ってしまいます。そうなってしまったレイスはもはや主人公としての資格を失い、〈忘却〉に仕える悪霊と化してしまいます。そこから復帰する手段は、何もありません。それは、レイスにとって最も恐怖すべき結末です。

 ゲーム上では、【シャドウ】の役目は隣のプレイヤーがつとめます。少しでも機会があれば、【シャドウ】を演じるプレイヤー(シャドウガイド:Shadowguideといいます)は、容赦なく誘惑の言葉を投げつけます。あんなヤツぶったたいてやれよ、とか、あいつの武器があればいいのにね、とか、【シャドウ】の力を借りれば判定に成功できるよ、など…。
 もし、レイスのプレイヤーが冗談でも「それもいいかも」などと答えようものなら、〈憂悶〉はあっという間に上昇してしまいます。軽口を叩きがちな人は注意したほうがいいでしょう。


永遠の憂愁の中で

Eternal Suffering

 このような悲哀と憂愁に彩られた世界と自己存在を抱えて、レイスたちは永遠の狭間の世界をさまよい、自らが生者の世界に残した心残りを解決していかなければなりません。その路程の途中では、自分の感情の爆発や、【シャドウ】のささやきに身をかしたことで容易に破滅がクレバスを開いてしまいます。あるいは、スティギアを巡る謀略のまっただ中に巻き込まれてしまうかもしれません。レイスたちは皮肉なことに、死んだ後ですら“生き延びる”算段を考え、“魂”をかけた危うい綱渡りを強いられることになるのです。

 ワールド・オブ・ダークネスに安息の場所はありません。
 たとえ死んでも、苦悩は続くのです。今度は、あるいは永遠に…。