闇の中の妖精

田中真理の巻


 田中真理といえば、今ではまず一連の摘発事件とそれに続く日活ロマンポルノ裁判等で、「戦う女優」「警視庁のアイドル」といった肩書きの方が伝説的になっておりますが、幅広い役をこなせる演技力も確かですし、ロシア系の血が入っている美貌、そしてなによりあのスレンダーな肢体、まさにしなやかな感性を見せてくれた女優さんでした。彼女の芸暦は高校時代に日活にスカウトされたところからスタートしており、まずちょい役として下記の作品に出演しております。


女番長・仁義破り(昭和44年・日活)
監督:江崎実生
出演:長谷川照子、佐川啓子、美波節子、秋とも子、田中マリ 他

 田中真理の実質的デビュー作で、芸名は「田中マリ」となっております。物語はズベ公グループ対ヤクザ組織という典型的なスケバン・アクション物で、主演の長谷川照子は大きな瞳が印象的な女優でした。

 当時の彼女はこの作品出演と平行してテレビや他社の作品でもちょい役として活動していたらしく、何かのインタビューで「サインはV」にも出演したことがあると語っておられました。しかし、彼女が本当に輝くのはこの後のことです。それが高校卒業後、折からロマンポルノ路線をスタートさせた日活と「田中真理」として再契約し、次々と素晴らしい作品に主演していくことなのは、言わずもがなです。


セックス・ライダー/濡れたハイウェイ(昭和46年・日活)
監督:蔵原惟二
出演:田中真理、瀬戸ユキ、吉沢健 他

 田中真理の主演第1作です。

 もちろん私はリアルタイムではなく、再上映している時に跡追いで見たのですが、例の摘発事件とそれにともなう田中真理の人気で劇場は満員の盛況だったことをはっきりと覚えております。

 作品的には日活アクション路線の味がとても強く、物語は恋人と別れたその帰り道で男を車で轢いてしまった田中真理と、実は死んだふりだったそのヒッピー男が、ぶっ飛ばす車の中で絡み合いスピードの中でSEXの快楽を求めるという展開でした。

 若者にとっての当時は、学生運動やロック革命等の夢の挫折後という時代であり、したがってそういう人達を観客に想定した映画では例えポルノと云えども安易なハッピーエンド的な作品は作ってはならないような風潮があり、ここでも最後には絶頂とともに散るという結末になっておりました。このあたりはアメリカン・ニューシネマの影響も伺えるところですが、退屈な日常、そしておそらくは平凡であろうこれからの人生から逃れたいというヒロインの願望のようなものが独特の日本的湿っぽさで取り入れられていたのではないかと思います。しかしそれが成人映画に漂うある種の陰湿なイメージや生活臭になっていないのは蔵原監督の演出も然ることながら、やはり田中真理の個性ではなかったかと思います。それはこの後に公開される諸作品でも顕著で、そのあたりが彼女の人気に繋がって行ったのではないかと、今思っております。


恋の狩人/ラブ・ハンター(昭和47年1月・日活)
監督:山口清一郎
脚本:こうやまきよみ
出演:原英美、田中真理、南寿美子 他

 田中真理の主演作品ではありませんが、封切り最終日の摘発事件とそれに続く不毛な裁判により、結果として彼女の「エロスの女闘士」としての伝説の始まりを記録したものとなっております。もちろん私はリアルタイムではなく、昭和50年に某所で行われた自主上映会で見ることが出来たのです。

 物語は大金持ちの令嬢=原英美が、淫乱な母親の血筋を証明していくかのようにクスリ(確かハイミナール)を常用しながらのテレフォンセックス、レズ、そして男との絡み等、様々な情事に溺れていく様を描いておりました。しかし、これは「中川梨絵の巻」でも触れたのと同様に、摘発されるほど強烈な場面があったとは思えませんでした。あえて言うならば、従兄弟との絡みにおいて、角度的に「本当に挿入っているのでは?」と思われるところがあったくらいです。

 では何故この作品が摘発されたのか?

 そこに至る顛末を個人的観点から纏めてみると、当時は様々な分野で性表現が過激になりつつあり、映画の場合でも映倫審査の半分以上が成人映画・ピンク映画と呼ばれるものという下地があったところへ、いくら倒産の危機に直面していたとはいえ、大手の日活が「ロマンポルノ」と称して堂々とエロ映画の製作を開始し、またそれが人気を呼んでいるというあたりが当局を刺激してしまったらしいと推察しております。

 まず昭和47年1月19日、徳島県警が日活関西支社からポルノ・ビデオテープ数本を押収、これはモーテルやラブホテル等で流されている物ですが、ちゃんと映倫審査を通過していると弁明したにもかかわらず、1月21日には日活社員の逮捕にまで発展してしまいます。逮捕容疑はもちろん「猥褻図画販売」で、要するにモーテルやラブホテルでは未青年の閲覧を規制出来ないという理由が付けられておりました。

 そしてついに1月28日、同時上映の「OL日記・牝猫の匂い(中川梨絵の巻参照)」「女高生芸者(プリマ企画製作・渡辺輝雄監督作品)」と共に警視庁から摘発されたのです。もちろん日活本社、プリマ企画、映画館等にも家宅捜索が入り、映倫も幇助容疑で強制捜査を受け、さらに監督、出演者、そして製作側の関係者が峻烈な取り調べを受けたのは言うまでもありません。社会的反響も大きく、その中で警視庁側が「下着を着けない男女の性交シーンが露骨に描かれている」「性行為そのものを見せるためにストーリーを作ってある」というコメントを出せば、日活側は「映倫審査を受け、注意事項も守っているのに、これでは猥褻の基準がわからない」と反論し、さらにこれが第1回作品だった山口監督は「自然なる性が余りにも豊かであると国家が嫉妬する」という有名な(?)台詞で裁判を通じて対抗意識を剥きだしにするという展開で、それ故にこの作品が益々記憶に残るものとなってしまったようです。

 で、肝心のエロ場面ですが、個人的に記憶に残っているのが原英美と田中真理のレズ・シーン、そして母親役の南寿美子が太い杖で股間を刺激され悶えてしまうあたりが強烈でした。彼女は確かデビューが新東宝で天知茂、左幸子と同期、その後日活に移籍しテレビでも活躍しておりますが、ロマンポルノにも「東京チャタレー婦人(志麻いづみの巻参照)」や「縄地獄(闇に蠢く・第8回参照)」等に出演するなど、息の長い活動を続けた女優さんです。また、主演の原英美は、少〜し「熟女」が入った演技が得意で、ここでも28歳のクールな美女という設定でした。彼女もまた初期ロマンポルノには欠かせない記憶に残る女優さんです。尚、脚本の「こうやまきよみ」とは神代辰巳と山口清一郎、両氏の合作ペンネームだということです。


しなやかな獣たち(昭和47年2月・日活)
監督:加藤彰
出演:田中真理、曽我正子、谷ナオミ 他

 田中真理の主演第2作です。

 私はリアルタイムで見ておりませんが、例の摘発事件直後の封切だったのでかなりの興行実績があったようで、再上映された時も満員でした。当局の取り締まりも一般大衆にとっては「そんなに凄いのなら見てみたい……」というスケベ心を刺激してくれるものに他ならないのだと思います。

 物語は所謂チンピラ物で、兄貴分のヤクザからいい様に使われているチンピラが病院から麻薬を脅し取る仕事の際に知り合うのが、その病院長の娘・田中真理という設定でした。 その後、紆余曲折があり、兄貴分のヤクザが組を裏切ったことから彼女も窮地に陥りますが……、という展開でした。

 シナリオの練りがやや不足という気も致しましたが、それを補って余りあるのが田中真理の魅力で、ここでも体当たりの演技でえっち場面を見せてくれました。また、谷ナオミはおそらくこれがロマンポルノ初出演ではないかと思います。ただし、「あれ」では無く普通の演技を見せてくれたのですが、やはり流石の存在感でした。


ラブ・ハンター/熱い肌(昭和47年3月・日活)
監督:小沼勝
出演:田中真理、相川圭子 他

 これまであまり話題になったという記憶が無いのですが、個人的にはこの3本目の主演作はかなり強烈な味があると思います。それは初期作品でありながら既にして全開となっているヌメヌメとした小沼監督の演出の賜物で、特に田中真理の色白の肉体を中心に据えた色彩的官能美の冴え、例えば彼女の身体の影の部分の処理や黒いローブと皮手袋のイメージや浴室での赤い唇の模様等々が強烈です。

 で、物語は事故でインポになった夫に責められる若妻=田中真理が、昔の恋人とカー・セックスの果てにまたしても事故を起し、それを目撃した男に脅迫されて……、という展開でした。 猟奇的雰囲気が続いた後のクールでハードボイルドなラストシーンが最高に心に染わたります。

 また、第1作目の「濡れたハイウェイ」もそうでしたが、この頃からカー・セックスというものが注目されはじめ、それは身近なところに車が普及してきたという豊かさの表れなのですが、まだまだ若者にとっては高嶺の花で、自分の車を所有していることがステータスであり、つまりカー・セックスは若者のある種の憧れだったのです。したがって当時の男性週刊誌等にはその要領が特集記事で組まれるほどでした。
 ということで、この作品は当時の流行とある種の倒錯性が上手くからみあった隠れた名作ではないかと思います。これはビデオ化されておりますので、ぜひご覧いただきとうございます。


愛のぬくもり(昭和47年4月・日活)
監督:近藤幸彦
出演:田中真理 他

 「恋の狩人」に続き再び摘発を受けたことから、田中真理が「警視庁のアイドル」と呼ばれるようになった決定的な作品です。それは封切公開中の4月28日、この作品が「猥褻図画に該当する」として警視庁が日活本社や撮影所及び上映館を家宅捜索したことから始まり、田中真理は警視庁と東京地検に呼び出しをくらい、峻烈な取り調べを受けたそうです。当然世間とマスコミは大騒ぎとなり、虚実入り乱れての報道でどうやらその取り調べではかなり陰湿な質問があったらしいとか、映画評論家たちが警視庁へ抗議文を送ったりというような出来事が続きました。その中で田中真理は「いくら説明しても、次元が違うのでわかってもらえない。あんな心の貧しい人たち……」という伝説的なコメントを出されておりました。彼女を支持したのは学生運動衰退期の若い人達が中心で、この頃から彼女はいろいろな講演会等にも引っ張り出されるようになったとか、本当にある種の反権力的なアイドルになっていったのでした。

  で、肝心の物語は、真面目(?)な大学教授の愛人=田中真理がそれだけでは物足りず様々な男性遍歴を繰り返しますが、最後には総てを投げ出して真実の愛を求めようとする教授の元に返るまでを描いておりました。もちろん私はリアルタイムではなく、これもまた前記した自主上映会で見たのですが、摘発されるような場面が本当にあったかどうか疑問です。なにしろ全裸での男女の絡み場面が無いのですから……。つまり、これはこの作品だけに限らず、当時の成人映画の男女の絡み場面においては男は上半身は裸でもズボンを穿いていたり、女は一見全裸のようでいて、夜具に包まっていたり、乳と尻の割目は同時に見えることは無いというような、部分的なヌード描写が主流だったのです。したがってその場面では男女ともに俳優の演技力というものが物凄く要求されるわけで、この作品では田中真理の喘ぎ声やその時の表情、また身体の持っていきかた等は流石に興奮度が高く、ドラマ部分も含めて彼女の的確な演技力は見事だと思います。

 こうして一連の摘発事件と捜査の結果、警視庁は5月25日に取り調べを終え、猥褻図画公然陳列と同配布容疑で堀雅彦日活社長以下370人を東京地検に書類送検しております。また映倫の審査員3人も陳列・配布の幇助容疑で同様の扱いとなりました。


雨のヘッドライト(昭和47年5月・日活)
監督:小沼勝
出演:田中真理 他

 一連の騒動の中で製作・公開された田中真理の主演作ですので、当時の芸能ニュースあたりでも取り上げられたり、かなり芸術点の高い大きな看板とかも見た記憶があり、相当宣伝されていたのではと思います。

 物語は男に騙され捨てられた女・田中真理と所帯持ちのトラック野郎のかなわぬ恋の物語で、最後の少し悲しい結末の為かややドロ臭いメロドラマの風情がありますが、美しい自然描写や小沼監督の演出の冴えが見事で、名画座での「田中真理特集」の定番となっていた作品です。ただしえっち場面は他の作品に比べるとやや控え目です。しかし、奔放な彼女はもちろん素敵ですが、この作品のような健気な女性を演じる彼女もまた素敵だと思わずにはいられません。


おんな天国・子だね貰います(昭和47年6月・日活)
監督:小原宏裕
出演:田中真理、原英美 他

 この作品もリアルタイムではなく、公開からかなり後になってある地方都市の名画座のような所で見たのですが、かなり使い回されて来たのでしょうか、そのフィルムは傷だらけで音声もガタガタだったという状態だけはハッキリと覚えております。

 封切当時の田中真理といえばある種の社会現象であり、主演作品が毎月新作として公開され、また旧作も人気を集めるといった状態が推察できたので、それも頷けるところでした。

 物語は遊び好きの女工=田中真理が妊娠してしまい、そのタネ捜しという展開でした。これまでの作品の中ではかなり軽い部類に入りますが、こういう軽妙な演技もまた彼女は上手いと思わされました。共演の原英美とは例の「恋の狩人」でのコンビとあってかなりエグい場面を期待したのですが、エロ描写はここでもやや控え目でした。


夜汽車の女(昭和47年7月・日活)
監督:田中登
出演:田中真理、続圭子、桂知子 他

 とても耽美的で私の大好きな作品です。

 物語は所謂「姉妹愛憎物」でおしとやかな姉=続圭子と、彼女を母親がわりにして育った我侭で奔放な妹=田中真理、この姉妹は異常なほど仲良く生活していたのですが、姉に婚約者が出来たことから妹が嫉妬、さらに2人の父親の愛人兼女中までもがそこに絡んで……、という展開です。

 どの場面においても田中監督の演出は入念で冴えわたり、それは映像美に凝る以上に人間心理の描写に顕著です。例えば姉妹がお互いの腹を探り合うようにして色々と遊ぶ場面、姉の婚約者を兆発して庭の芝生で肉体関係を持つ時の田中真理の意地悪で官能的な表情等々が印象に残ります。

 物語は後半、父親が病に倒れたのをきっかけに急展開、実は田中真理は母親の不義の子であることを告白され、舞台は信州の別荘へ移ります。そしてそこで妹の呪縛から解放された姉は婚約者と蜜月の日々を過しますが、それを追いかけて田中真理が夜汽車でそこへ向かう場面はある種の詩情とドロドロとした人間の本性が交じり合ったところを観念的に、そして暗黙の了解的に映像化しており、破局に向けての予感が満ちた素晴らしい演出だったと思います。そしてその後、田中真理は当然のように姉の婚約者を再び誘惑、翌朝、姉妹は剃刀で心中してしまいますが、それが何故なんだ、というような野暮な疑問が入る余地がないほど濃密な演出と映像美に圧倒される作品です。また最後に愛人にも捨てられ、ひとり取り残されて涎をながす父親の姿も哀れを誘います。

 ぜひ皆様にご覧いただきたい田中真理の代表作、そしてロマンポルノの傑作だと思います。尚、続圭子は東映から日活に移籍してのこれがロマンポルノではデビュー作で、後に正田景子の芸名で一般映画やテレビでも活躍された美人女優です。


好色家族・狐と狸(昭和47年9月・日活)
監督:田中登
出演:田中真理、原英美 他

 軽いコメディ風でえっち度は低めですが、ある種の「毒」を含んだ諧謔的な笑いがある作品だと思います。

 物語は癌で余命幾許も無い母親の家にそれぞれ父親が違う姉妹が男と共に遺産目当てで乗り込んできて……、という展開でした。

 これも公開からかなり年数がたってから跡追いで見たのですが、田中真理をはじめ出演者全員が笑わせる芝居に徹したところが印象的で、やはり当時の役者さんは成人映画といえども演技をおろそかにしない姿勢に情熱やプロ意識を感じました。とくに田中真理のおとぼけは個人的にお気に入りとなり、一般映画やテレビでの活躍も期待させたのですが……。


女子学生/セクシー・ダイナマイト(昭和47年9月・日活)
監督:林功
出演:田中真理 他

 所謂「不良少女・スケバン」物で、これも個人的にとても好きな作品です。

 物語は怠惰な生活を送る不良女子学生=田中真理が自分の母親の情夫であるやくざの組長を刺殺した男を助け、逃亡を図りますが……、という展開でした。

 前半はとにかく何事にも熱くなれず、また母親を嫌悪して惰性で生きている田中真理の乱れた生活を、後半は追われる男に好意を持ち、なんとか助けようと奔走する彼女の姿を描いておりますが、その対比が非常に鮮やかで、物語が進むにつれて輝きをましてくる田中真理がとても素敵です。

 特に隠れ家で追われる男と刹那的に抱き合い絡みに至る場面での情熱的な身のこなしや眼の輝きは前半の投げやりな生活を送っていた時には全く感じられないもので、素晴らしい演技力だと思います。そしてもちろん物語は悲しい結末を迎えるのですが、その後の彼女の演技がまたいっそうやるせない雰囲気を漂わせていて最高でした

 ポルノとしても優れた作品ですが、ほろ苦い青春映画としても一級品で、当時から名画座でも定番となっていた作品でもあり、すけべ心を抜きにしてお勧めの一本です。


妻三人・狂乱の夜(昭和47年10月・日活)
監督:小沼勝
出演:二條朱美、原英美、田中真理 他

 上流階級の性の乱れを描いた作品です。

 物語は金持ち一家に棲む後妻、息子の妻、女中の3人の女がお互いに殺意を抱きながら爛れたSEXの日々を送るという展開で、ミステリ的オチがあります。二條朱美原英美のともに脂っこい熟女的演技に対し田中真理はしなやかな感性で新鮮味のある絡みを見せてくれました。ただし内容的にはいまひとつの気が致します。


官能教室・愛のテクニック(昭和47年11月・日活)
監督:田中登
出演:田中真理、絵沢萌子 他

 私が初めてリアルタイムで見た田中真理の主演作品です。

 彼女の役は美人高校教師で、物語は彼女に憧れる男子高校生の奮闘を描いたものでしたので、当時の自分と重なる部分が多く、かなり感情移入して見ていた記憶があります。特にその男子高校生が田中真理を「おかず」にしてオナニーをしたり、幼稚な策謀を弄して彼女と恋人の中を裂こうとしたり、本来は爆笑になるところで素直に笑えない部分がありました。そして物語では念願適い、ついに田中真理に抱かれる(?)という展開になり、見ていて本当に羨ましくなりました。しかしやはり最後には田中真理は恋人である同僚教師と結婚、学校を去るという結末で、青春のせつなさ、ほろ苦さをを含んだ佳作ではないでしょうか。

 えっち場面では恋人に抱かれる時は思いっきり乱れ、生徒と絡むときには優しく、しかも凛としたものさえ感じさせる官能美を見せてくれる彼女の素晴らしい演技力を味わうことが出来ると思います。


新・色暦大奥秘話・やわ肌献上(昭和47年11月・日活)
監督:林功
出演:小川節子、二條朱美、サリー・メイ、青山美代子、田中真理 他

 「サリー・メイの巻」「小川節子の巻」でも取り上げた作品です。田中真理はちょい役です。


戦国ロック・疾風の女たち(昭和47年12月・日活)
監督:長谷部安春
出演:田中真理、山科ゆり、相川まり子、続圭子、花柳幻舟 他

 戦国時代を舞台にしたアクション・ポルノで、「疾風」は「はやて」と読ませます。

 物語は女ばかりの七人組の野盗「疾風組」の活躍を描いたもので、敵方忍者との戦ったり大名行列を襲撃したりと、痛快な場面の連続ですが、もちろんえっち場面も出演女優各々の見せ場が用意されていて、正月公開らしい娯楽作品です。

 長谷部監督は傑作「爆弾男といわれるあいつ(昭和42年・小林旭主演)」等、往年の日活ニューアクション路線で素晴らしい実績があり、ついにロマンポルノを手がけるということで多いに期待したのですが、失礼ながらアクション場面に比べてその熱気がエロ場面においてはやや薄まっている印象がありました。具体的には物語の設定からもっと激しい暴力的性描写、つまりSM指向があるものを求めていたわけです。ですから個人的には物足りない部分もあるのですが、田中真理に限っていえばこの作品でも輝くばかりのしなやかでえっちな演技をたっぷりと楽しむことができます。


女子大生・SEX方程式(昭和48年1月・日活)
監督:小原宏裕
出演:田中真理、青山美代子、カルーセル麻紀 他

 健康的なお色気喜劇です。

 物語は田中真理演じる女子大生が週刊誌のアルバイトでソープランドの実態調査を行うというもので、もちろんその中で様々なえっち場面が展開されます。ラストにはその仕事を依頼したのは大学教授だったというオチがあるのですが、失礼ながら軽さばかりが目立ち、もう少しシニカルな笑いが欲しいところでした。ただし好奇心旺盛な女子大生は田中真理にはかなりのハマリ役ではなかろうかと思います。ただ、これといって特筆すべきエロ場面がないのが残念でした。


実録白川和子・裸の履歴書(昭和48年2月・日活)
監督:曾根中生
出演:白川和子、田中真理 他

 「小川節子の巻」でも取り上げた作品で、ロマンポルノ創世期の大スター=白川和子の引退記念作品です。田中真理はちょい役です。


女子大生SEX方程式・同棲(昭和48年5月・日活)
監督:小原宏裕
出演:梢ひとみ、田中真理 他

 梢ひとみのデビュー作で、田中真理は助演という扱いになっておりますが、これもシリーズ前作を踏襲した軽い仕上がりの作品です。尤もこれには公開前に警視庁から「猥褻な場面がある」という警告がなされ、その指摘場面をカットしてしまったという事情があったのです。したがって過激なエロ場面は抑え気味という状態です。

 あと、梢ひとみは田中真理と似た資質がある「しなやか系」の女優さんで、彼女の日活退社後に「ポスト田中真理」として売り出されたのは皮肉でした。


恋の狩人/欲望(昭和48年6月・日活)
監督:山口清一郎
出演:田中真理、市田亜矢 他

 山口監督の2作目、そして田中真理とのコンビ復活ということで公開前から色々と話題になった作品です。もちろんそれは「恋の狩人/ラブ・ハンター」の摘発事件絡みのことであったのは言わずもがなです。そしてこれはその裁判及び国家権力に対してかなり兆発的な内容を含んでおりました。

 物語は学生運動・安保闘争の挫折感を引きづるルポライターが猥褻ショウを演じて逮捕された女子大生=田中真理を取材するうちに自らを見詰めなおすという展開で、どのような情況でも伸びやかに振舞う彼女に惹かれていくのですが、最後には学生運動時代に付き合っていた恋人と心中するという結末になっておりました。

 表面的には学生運動の挫折感を描くことによって国家権力に対する抵抗と無力感を表現しているとしても、ここまでやってしまえば、これはもう表面的云々ということは通用せず、誰が見ても当時の山口監督と田中真理、および摘発事件で起訴された関係者の事情が投影されていることは明らかでした。その所為かSEX描写もどこか暴力的でありながら無気力的な部分を感じさせると言う、真に不思議な雰囲気を個人的に強く感じました。

 尤もこれは一連の事件を知っているという下地があればこそで、全くそれを知らない人がご覧になればどのように感じられるのか、非常に興味があります。監督およびスタッフにどの程度その気持ちがあったのかも推測の域を出るものではありません。しかし流石に会社側は敏感に反応し、次回作として企画された「恋の狩人・淫殺」がクランクイン寸前で打ち切りに追い込まれることになります。そしてそれは田中真理の日活退社に繋がっていきました。


 というような事情で田中真理は「恋の狩人/欲望」を境にしばらくスクリーンから姿を消すことになります。

 その後、彼女はテレビや舞台で活動するのですがそれもパッとせず、それは何かの協定に縛られていた為なのでしょうか? またそこに至るまでには摘発事件の裁判の長期化、会社側の圧力、組合の経営介入等々、様々な圧力が加わっていたものと色々な憶測がありますが、真相は藪の中です。

 また、山口監督も裁判中に一貫して反抗的な態度を取り続けたためか長期間ホサレる格好になり、結局昭和52年に日活を解雇されております。

 で、肝心の裁判ですが、昭和49年1月30日、前代未聞ともいうべき法廷試写会が行われました。もちろん摘発作品との比較のためで、上映されたのは「団地妻・昼下りの情事(昭和46年・日活)」等日本の成人映画4本、と当時の資料にあります。弁護側は洋画ポルノ(無修正?)の上映も検討していたらしいのですが、それは配給会社の(飛び火、薮蛇を恐れた?)反対により実現しておりません。それにしても裁判官をはじめ法曹関係者はどのような態度でそれを鑑賞されたのか非常に興味があるところです。


北村透谷・わが冬の歌(昭和52年・三映社〜ATG)
監督:山口清一郎
出演:みなみらんぼう、田中真理、藤真利子、なぎらけんいち 他

 山口監督が日活を解雇された後一気に撮りあげた作品で、もちろんエロ映画ではありません。

 物語は自殺した明治時代の天才詩人・北村透谷の苦悩の日々を描いたもので、長い雌伏期間を強いられてきた山口監督の情念の噴出ともいえるような凝縮された映像空間が見事ですが、反面やや観念的なところへ落ち込んでいるようにも感じられました。
 
 久々にスクリーンに復帰した田中真理は内に秘めた色気が滲み出てくるような雰囲気がとても良く、その後の活躍を期待したのですが、残念ながらこの作品を境に再びフェードアウト気味になっていきました。共演者では樋口一葉役の藤真利子が強い印象を残しております。また、主役のみなみらんぼうはヒット曲「ウイスキーの小壜」等のフォーク歌謡で人気のあった歌手でもあり、朴訥としてほのぼのとした雰囲気の中に苦悩を漂わせるという独特のキャラクターがハマっておりました。


 さて、田中真理の出演作品については一応ここまでとさせていただきとうこざいます。

 もちろんこの後にもテレビ・舞台そして映画・Vシネマ等の出演作品があるのですが、結果的に彼女の活動が制限されたとしか思えないのはやはり日活ロマンポルノ摘発事件とその裁判の長期化によるところが大きいと思わざるを得ません。またその標的が何故田中真理なのかといえば、理不尽な弾圧や陰湿な裁判に屈する事のない凛とした彼女の演技や態度、それに比例して急上昇した人気が当局や権力者のお気に召さなかったのだろうというのは全くの私の邪推に過ぎませんが、容易に思い当たるのもまた不思議ではない程、当時の彼女は社会現象であり大スターであったのです。

 そしてどういう理由があったにせよ、彼女の活動がその肉体のピーク時、及び演技者としての上昇期に中断してしまったのはいかにも残念です。で、その裁判ですが、昭和53年6月23日、東京地裁は被告人全員に無罪の判決を下します。猥褻性が否定されたわけですが、山口監督は「猥褻にも至らない作品を作って恥ずかしい」と法廷で発言しており、また地検も当然のように控訴しております。しかし昭和55年7月18日、東京高裁で再び無罪判決が下り、流石の検察側も上告を断念、被告側の無罪が確定し、不毛の裁判もようやく幕を閉じたのでした。

 現在、彼女は結婚され女優業からは引退されているようです。ということで、私は、もっともっと様々な役柄で多くの作品で素晴らしい演技を見せて欲しかった……、というような繰言はこの文章を最後にもう止めようと思います。そして彼女の中には拭い切れないものがあるのかもしれませんが、現在の、またこれからの幸せを祈念したく思います。ただ彼女の出演作品の大部分が未ビデオ化・DVD化なのが非常に残念です。

摘発事件及び裁判関連については当時の新聞記事、エロ本及びパンフレットを参考に致しました。
「夜汽車の女」はかなり前にビデオ化されております。古いレンタル屋にあるかもしれません。


(2002.10.16「地下画廊」に掲載 / 2005.01.14 改稿転載)
(敬称略・続く)