おれは窯の子クロ【全編】No.11

121.猛暑続きにようやく終止符を、と思いきや前線に吹き込む南風に何という暑さだ。おれの寝室はトタン屋根だから日中はとても居られない。そこで日中は窯広場のあちこちをほっつき歩き涼しいところを探すのだ。今日見つけた避暑場所は「ちっちゃな土窯資料館」入り口だ。縁の下を吹いてくる風がとても涼しいのだ。折角ゆっくりと寝ていたのにまた今半兵衛さんがやってきておれをかまう。ゆっくり寝ても居られない。縁の下の涼しい風を部屋へ取り入れる工夫でも考えたらどうなんだ。(2011/8/26)
122.今年の残暑はとても厳しいね。暑さ寒さも彼岸までというけれど、もう少しの辛抱だ。日の出の太陽は真東になってきたよ。夜明けも大分遅れてきたし、これからは夜が長くなるから忙しくなるぞ。それにしても朝日はとても気持ちがいいね。一日の幸せを予感させるよ。現代の子どもは朝日を見たことがないのだそうだ。どういう子育てをしているのだろうか。「早起きは三文の徳」というではないか。三文も徳も分からない?それでは「早起き目の薬」は分かる?現代の子どもの目の悪いのはもっともなことだ。(2011/9/18)
123.今日の日中の気温は20度。今半兵衛さんが夏の間休んでいた炭焼きに取組み始めた。いつもはおれ一匹が炭窯にいるけど、炭焼きが始まり人がやってくると楽しいね。ところでおれにとっては20度の気温は寒いのだ。それに太陽が出ていない。そこでおれは考えた。目の前に土とは違ってふかふかしたチェンソーのおがくずがあるではないか。この上に座ってみたらどうなんだ。と、暖かい。これもエコエネルギーなのかニャァ。(2011/10/19)
124.このなさけない姿は何ということだ。今半兵衛さんはおれの苦しさがわかっていないようだった。いつもどおり朝やってきて、おれを抱き上げて驚いていた。尾の付け根のすぐ上から血が出ていたのだ。よそのネコに噛み付かれたのだろうかとブツブツいいながら15km離れた病院へ連れて行ってくれた。先生の診察では背骨とお腹の間に膿がたくさんたまっていてそれが吹き出たとのことだ。即入院し治療することとなった。1週間の泊りだって、トホホ (2011/12/5)
125.外でのびのびと太陽の光を浴びるってうれしいね。入院して8日目で退院できたのだ。背中に刺さっていた膿取り用の管もはずれてこうして背中を大地にこすり付けることも出来るのだ。それにしても狭い部屋から開放されるってのは何にも換えがたくうれしいね。今半兵衛さんは入院が長引くことを大分心配していたようだよ。よくよく聞いてみるとおれの体を心配しているのではなくて、入院費を心配していたようだ。なにしろ保険が無いから年金暮らしにはこたえるらしいよ。おれも気をつけて怪我をしないようにしなくてはね。 (2011/12/13)
126.窯広場が霜解けだ。年の暮れの寒さから少し気が緩んだようだ。おれにはどうも寒さが苦手だよ。窯に来る人がおれの毛並みの良さをほめてくれるが、唯一の防寒着だもんね。この防寒着は純毛だからとても暖かいのだ。しかし乾燥が続くと静電気とやらが発生するのか、ホコリがまといつくのだ。 今朝は湿度が高いから毛並みの良さがよく分かるだろう。こんな日にデートしなくちゃね。(2012/1/1)
127.おれは毎日決まったところで爪を研ぐ。資料館の入り口柱、窯ベンチ南土手下の檜の材木、そしてここ車輪の前の板材だ。車輪の壊れているところはおれが壊したのではないよ。老朽して落ちたのだ。この車輪は近くに住んでいた方が昔馬車引きを業としていた時に使っていたんだって。今で言えば大型トラックの運送屋さんだね。今半兵衛さんは小学校にいく時など馬車の後ろにぶら下がったり乗せてもらったりしたそうだ。のどかな時代だったんだね。(2012/1/24)
128.今年の冬はとても寒かった。おれのねぐらは炭小屋だ。炭はたくさん入っているが、なにしろ火の気がないから夜明け前は死ぬほど冷たくなるのだ。東日本大震災で被災され仮設住宅で暮らしている方々も大変だと思う。早く春が来るのを待つだけだ。窯広場の桜はまだつぼみが固い。今年は開花が遅れそうだという。今日は窯体験の方が炭出しをした。窯内は冷えているわけだがなんとなく暖かい。今半兵衛さんが言っていたよ。窯の中に入ると母親の胎内にいたような気がするって。そのはずだよね。(2012/3/13)
129.桜が終わると窯周辺の山は木々が芽吹いてパステル調になってきたよ。おれの体の毛も豹変の如く毎日抜け変わっている。今半兵衛さんは毎朝ブラシをかけてくれるのだ。艶のある黒毛は見事だろ。
春は植物も動物もエネルギーに満ちていてとても活発だね。新年度を迎えて学校は賑やかになり、会社も役所も新しい陣容で出発だって。うなずけることだね。(2012/4/19
130.車に轢かれて死んじゃったって?いやいやそうではありません。あまりの暑さにただグッタリしているだけだ。車の下は日陰で地面が冷たいのでとても気持ちがいいのだ。
それにしても最近は通学途中で子どもたちが大勢車にはねられたり、大型バスによる事故死など目を覆いたくなる事件が多いね。世の中には考えられない事件が連日のように発生している。運転する人は人格者であって欲しいよ。
今半兵衛さん!おれを轢き殺さないでぇ。(2012/5/9)