映画「二十歳の原点」


「二十歳の原点」の映画パンフレットより
東京映画制作/東宝株式会社配給(1973年10月発行)

 

映画「二十歳の原点」より。画像は角ゆりこさん。腕時計が高野さんと同じです。



映画「二十歳の原点」
1971年5月に新潮社より出版された「二十歳の原点」は、様々な人に読まれ版を重ね、1971年のベストセラー作品となった。それから2年後の1973年10月に、大森健次郎監督、重森孝子・森谷司郎脚本で映画化された。この映画は大森健次郎・第一回監督作品となる。 主演は当時新人女優だった角ゆり子。



スタッフ、キャスト
スタッフ ・・・ キャスト
製 作 金子正旦 高野悦子(20)立命館大3年 角ゆり子
企 画 小林八郎 高野昌彦(父) 鈴木瑞穂
原 作 高野悦子(新潮社版) 高野妙子(母) 福田妙子
脚 本 重森孝子 高野芳子(姉) 高林由紀子
脚 本 森谷司郎 高野昌男(弟) 丹波義隆
監 督 大森健次郎 渡辺(立命館大生) 大門正明
撮 影 中井朝一 鈴木(国際ホテル・食堂主任) 地井武男
美 術 樋口幸男 中村(京大生) 富川徹夫
録 音 原島俊夫 牧野(悦子の友人) 川島育恵
照 明 羽田昭三 松田(悦子の友人) 津田京子
音 楽 小野崎孝輔 下宿のおばさん 京千英子
整 音 西尾昇 「ろくよう」のマスター 北浦昭義
編 集 山地早智子
監督助手 松沢一男
製作担当者 内山甲子郎
 



ストーリー
…自殺した若い女性は高野悦子さん。20歳で、立命館大学文学部史学科の3年だった。遺書はなく、大学ノートに10数冊の横書きの日記が遺された。

1月2日、悦子は郷里の宇都宮で20歳の誕生日を迎えた。母親が作った成人式の晴着も、何となく、おしきせがましく感じ、イライラした毎日を過す。3ヵ日を過ぎて間もなく、悦子は京都の下宿に戻ってきた。時を同じくして悦子の親友でもあり、学園闘争の闘士、牧野も京都に帰って来ていた。

その頃、東大、京大と学園紛争は連鎖反応的に日本全国に拡がり、悦子の立命館大学にも紛争の波は押しよせていた。バリケード、機動隊、赤ハタ…。機動隊の棍棒で殴られ眉間から血を流しながら連行された、渡辺委員長の美しい顔を目前に見て、悦子は「何カヲシナケレバ…デモ何ヲシタライイノダロウ」と思う。
下宿でタバコを吸う悦子。20歳の記念にメガネを買う悦子。本当の自分をかくし、メガネをかけた自分の存在の滑稽さを演じている意識を楽しむ。
 カミソリで指先を切る悦子。自分にも赤い血が流れている。でも、一人で何ができるのか。両手を出して、飛び込んでいける恋人が欲しい。

ある日、迷いの中から、悦子は目覚めた。学生闘争から挫折していった牧野ら友人。目の前で逮捕された時の渡辺の目。荒れ果てた教室の中で、悦子が見たものは、自分自身の姿であり、戦う相手が自分であるということだった。
長い髪の毛を切り、友がいなくなった下宿を出て、ホテルでウェイトレスのアルバイトをする決心をした。一日働いて疲れ果てて、宴会場にあるグランド・ピアノの前に坐るときだけが、悦子が以前の素直な悦子でいられる時である。
下宿に帰ると突然来訪した父が待っていた。授業料を下宿探しに使った事、髪を短くカットした事を責められた。父を送っての帰途、深夜の河原町通りを歩く悦子は淋しかった。その夜、スナック“ろくよう”ではじめてお酒を飲んだ。そこのマスターは、アルバイト先の鈴木主任と同級生であった。彼との会話の中に自分が鈴木に恋をしていることを意識した。

悦子は学校への、親へのささやかな自分自身の抵抗として、試験を放棄、授業料の不払いを決意する。
お酒の楽しさ、自分は独りであることの確認。
鈴木への激しい想い。

4月、新入生を迎えて、大学キャンパスは正に平和そのものである。その中に立ちつくしている悦子。
「コレハ、イッタイドウイウコトナノダ。アレカラ3ヶ月モタタナイノニ、コノ平和ナ姿ハ。ニセモノノ平和、アノ渡辺ノ残シテイッタモノハ、ドコヘ行ッテシマッタノカ。ニセモノノ平和ニハ負ケナイ」
悦子は、自分独りでも戦おうと思った。授業料の不払いという形での両親との訣別、孤独との戦い、未熟であることの認識…。

メーデーの日、偽りの平和に甘んじる人々の表情を見て悦子は絶望した。この日、鈴木への激しい思慕を胸に抱きながら、バイト先の京大生中村とデイトをした。
酒、タバコ、中村との生活、遠くなってしまった家族との対話、学生闘争への没入…。
しかし、悦子は、空っぽの満足の空間にさまよう。
 すべての奴を忘却し、どんな人間にも、悦子の深部に立ち入らせてはならないと思う。沈黙あるのみ。でも淋しい。
暗い夜だけが、悦子のただ一人の友となる。酒、睡眠薬。
悦子は永遠の旅に出る―。
(パンフレットより)


高野悦子役を演じた角ゆりこは「天神踏切の場面を撮る前の晩は眠れなかった」そうだ。



ある青春 二十歳の原点
映画制作と平行し、四人囃子によるサウンドトラックが製作された。
以下はアルバム「ある青春 二十歳の原点」(CD)より。
(自分でテープ起こしをしたので間違っている部分があるかもしれません。すみません。)

 
1)二十歳の原点のテーマ
主人公による語り

独り 
独り 独り 独り 独り 独り 独り
Only One
高野悦子
Man
Woman
She
You
It

<汽笛と汽車の走る音><音楽>
 
1月2日
今日は私の誕生日。二十歳になった。悪いことをすれば新聞に「A子さん」とではなく「高野悦子二十歳」と書かれる。私の顔の造作はかわいらしくできているらしい。鏡をみては、いろいろな表情をして遊んだりする。けれども、この私の顔のつくりは「私」にあっているだろうが、あまり整いすぎている。メガネをかけた方が、より「私」らしいと思う。そうだ、二十歳の記念にメガネをかけよう。

私は慣らされる人間ではなく、創造する人間になりたい。「高野悦子」自身になりたい。私は自分の意思で決定したことをやり、あらゆるものにぶつかって必死にもがき、歌をうたい、下手でも絵をかき、泣いたり笑ったり、悲しんだりすることの出来る人間になりたい。

 

2)今朝は20歳
詩・末松康生

 

3)1月7日〜1月17日
主人公による語り

1月7日
京都の下宿でひとりぼっち。西那須野の家にいれば、何も考えず楽しく過ごせるけれど、父母姉弟みんな何を考えているのか分からない。急にひとりになりたくて下宿に来たけれど、やっぱり淋しい。…なんて言っていられないのだ。悦子よ、人間は皆ひとりなのだ。勉強しなくっちゃ。

1月15日
「独りであること」、「未熟であること」、これが私の二十歳の原点。

<デモの様子(笛の音やわっしょいなどの掛け声)がバックで流れる>

1月17日
我が大学も封鎖。正門にイスや机でバリケードを築き、赤旗がなびいている。ヘルメットの学生がアジテーションをしている。彼らには歴史がある。私は私の歴史を持っていない。自分のことだけを考えていた私が恥ずかしい。何かしなくっちゃ。でも何をしたらいいんだろう。

 

4)学園闘争
詩・なし

 

5)2月20日
主人公による語り

<再びデモの様子(笛の音やわっしょいなどの掛け声)がバックで流れる>

2月20日
昨日まで私は傍観者であった。私は闘争を始めた。必死にマイクに取りすがり、機動隊に引っ張られるまで叫び続けたあの人。「俺が死んでも誰も泣いてくれなくてもいい。後を頼む」私にはそう言っているように聞こえたあの人の声。思わず私も叫んだ。「官憲帰れ!機動隊帰れ!」

だが、みじめにも私達は学内から押し出されてしまった。私は自分の弱さを知った。しかしバリケードを築く力はなくても、自らの内なるバリケードを築いていこう。あの人のために。

 

6)あなたはわたし
詩・末松康生

 

7)3月11日
主人公による語り

3月11日
あれからずっと私はあの人に、宛先のない手紙を書き続けている。
あの人は私のことなど何も知らない。けれど私はあの人に教えられた。闘うことを、勉強することを。「ひとりでやってみるんだ」あの人はそう教えてくれた。

私は宛先のない手紙を灰皿の中で燃やした。それは全ての期待をかけて勝手に作り上げた像であった。それは赤い炎を出して燃えていった。「さようなら、ありがとう」赤い炎に何度も何度もそっと言ってみた。

誰もいない
誰もいない 長い長い孤独の夜よ
寒い心に ひざかけ巻いて
宛名のない 手紙を書いたこともあった

黙して笑う時は
悲しさが全てを支配している時
深淵の闇さが 孤独の味気なさが

全ての虚偽を微笑んで拒絶しよう
耐えて孤独者の長い道を
光を絶って歩みゆかん

 

8)涙の年齢
詩・末松康生

 

9)青春
詩・岡田富美子

 

10)3月26日〜4月6日
主人公による語り

3月26日
アルバイト先でピアノを弾く。私はあるホテルのレストランで働いている。宴会場にあったピアノを見ると、たまらなくなって弾いてしまった。主任であるSに優しく叱られてしまった。S、この人の侘しげな後ろ姿がどうも気になる。奥さんも子どももいるであろう中年の 男なのに。この人も独りであることを知っているからであろうか。

4月4日
Sと一緒に“ろくよう”でお酒を飲む。それから私はやたらにお酒を飲むようになってしまった。煙草も意味もなく吸うようになってしまった。酔うとうっ積した感情が洗われて抑圧感がなくなる。私は弱い、独りでは淋しい。だから飲むのだ 、なんて。

悦子よ、勉強はどうしたのだ。独りである自分を支えるものは自分である。人間は他者を通じてしか自分を知ることが出来ない。私は全く自分というものが分からない。この肉体は何をしだすか分からない。他者によって写し出される己れ。自分は何もないのではないか。

 

11)夜
詩・コンフィデンス

 

12)S
主人公による語り

Sあなたは偽善者だ。私にあんなに優しかったのは全て仕事のため。ストライキ中に私を働かすためだったのか。学校よりも、勉強よりも、まずアルバイト。そこに行けばあなたに会える。それだけが私の支えだった。バカな悦子。

<音楽>

Sという見ず知らずの人間に夢想し、信じていたということは何と不思議なことだ。偽善者と呼ぶことすらおかしいではないか。

おいら
おっとせいの嫌いなおっとせい
だが、やっぱりおっとせいはおっとせいで
ただ
「むこう向きになっている おっとせい」

5月1日
この日、思いがけないことが起こった。

 

13)煙草(夜Part.2)
詩・コンフィデンス

 

14)昨日…
主人公による語り

昨日、この部屋に泊まって私の眠っている間に姿を消した人のことを、どうしてお母さんに話せるだろう。その人の名前はN。同じアルバイト先の京大生。昨日までほとんど話らしいことを話したことの無い人。
メーデーで偶然出会って一緒にサイクリングに行ったの。楽しかったことは事実。どうしてあんなことになったのか私にも分からない。Sに対する幻想をNに投影しただけなのか。でも私を愛していると呟いたあの目。私は酔っていたけれど、愛が欲しかった。お母さんごめんね。さよならS。

<音楽>

初夏の五月の空を風が流れゆく
そらに小鳥の歌声が過ぎ
雲が風に流れる
そらを風が流れゆき
陽の光も白い雲にかすみゆき
風の流れに木々の緑もゆれて通る
暗くも明るくもない五月の空間を
風が流れる

ついにNは来なかった。

5月9日
現実をみつめること そして、それに対決すること

5月10日
醜さをみつめて、美しさを愛すること

悦子よ、今こそおまえは闘わなければならない。
ひとりでも闘うのだ。
どうしたのだ悦子。

6月10日
Nとの訣別。

<音楽>

生きるということは妥協の連続なのか。

一切の人間はもういらない
人間関係はいらない
この言葉は 私のものだ
すべてのやつを忘却せよ
どんな人間にも 私の深部に立入らせてはならない
うすく表面だけの 付きあいをせよ

人間に対しては 沈黙あるのみ

6月18日
弱くて醜い人間がどうして生きているのかって考えてみました。人間の歴史がはじまって以来、多くの人間は何かの力に支配されながら、何かを生み出そうとし、創造してきたのです。それでは私は何を創造しようとしているのでしょうか。それを考える必要があります。

6月22日
また朝がやってきた。睡眠薬を飲んでみたい。そしてただ静かに眠りたい。生きたい。本当に生きていると感じたいのに、今の私はただ眠っていたい。

睡眠薬を20錠も飲んだのに何も起こらない。

<雨の音>

雨が強く降りだした。

二時三十分、深夜。

 

15)?
詩・高野悦子「旅に出よう」の詩

 

16)原始林…
主人公による語り

原始林を暗やみが包みこむ頃になったら
湖に小舟をうかべよう

衣服を脱ぎすて
すべらかな肌をやみにつつみ
左手に笛をもって
湖の水面を暗やみの中に漂いながら
笛をふこう

小舟の幽かなるうつろいのさざめきの中
中天より涼風を肌に流させながら
静かに眠ろう

そしてただ笛を深い湖底に沈ませよう

<汽笛と汽車の通り過ぎる音>

 

17)四人囃子から高野悦子さん江
詩・末松康生

 

18)BGM1

 

19)BGM2

2002年12月、当時のジャケットもそのままにCDとして発売された。
ハガクレレコード製作、ユニバーサルミュージックジャパンより発売。
2003年現在、 映画はビデオ・DVD化されていない。


 


 

 


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