坂口弘 歌稿

 

坂口弘著「坂口弘 歌稿」朝日新聞社

 

『坂口弘という人間の心の深淵、闇の深さは解説抜きに感じとって頂きたい。…良いことも悪いことも、そっくりそのままあるがままの姿で受けとって頂きたい(編者「あとがき」)』
(坂口弘 歌稿 帯から)

 

たったひとりで、長い間、混沌とした暗闇の中をさまよっていた、ひとりの人と、私たちは、丁寧におつきあいをしたいと思いました。
その人の心の中にあるものを表現する手段を探しつづけ、力づけ、勇気づけてきました。
そして今、私たちは、その人が表現しはじめたものをしっかりと受けとめて、それを人々に伝えていく時が来た、と考えます。
この歌集は、そういう考えのもとに、編集され、発表されます。
孤独で、この上なく不幸だったひとりの人と丁寧につきあうことを続けてきた私たちの記録でもあります。
皆さまが心の深い部分で、受けとめてくださることを願っております。
(同上 編者・高橋さんの言葉)

 

『坂口弘「元連合赤軍」』でも使用させて頂いているのですが、この中でも少し 紹介させて頂きたいと思います。

 

 

叶ふなら絞首は否む広場での銃殺刑をむしろ願はむ

 

枯るるまえ茎断ち切りて監視を避けカーネーションを胸に挿しおり

 

点検の前に必ず手で壁を三たびうたねば不安な男

 

人屋にも華やぎはある桃色のスゥエットを着て浮れ歩けり

 

「点検」と舎房に響く野太き声語尾の長きは声に酔いしか

 

クレンザーを使いすぎると注意されお茶で食器を洗いいるなり

 

退職の日に房に来て握手せし看守の面影忘れんものか

 

小心と負けず嫌いが同居して対人恐怖の吾となりたり

 

雨の夜はわが身を外にさらし出し心ゆくまでうたれんと思う

 

畜生と粗野な言葉が日に数度止めんとしても出ずるなりけり

 

「マドンナたちのララバイ」を聴き涙ぐむ死囚となりし牢の夕べに

 

面会に臆さず君の唄いたるソプラノ低き「平城山」の歌

 

打続く鼓動を指に聴きし人の命の重み思い知られて

 

あと十年生きるは無理という母をわれの余命と比べ見詰めつ

 

運あらば五十路を過ぎて逢うべしと下獄の友へありえぬ手紙

 

爪を剥ぎ火傷をつくりてわが罪の痛みに耐うるは自虐なりしか

 

リンチ死を敗北死なりと偽りて堕ちゆくを知る全身に知る

 









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