光の雨

 

玉井・山荘の窓からライフルを構える 革命をしたかった。ぼく個人ばかりでなく、
全体が幸福になる世の中をつくりたかった。
・・・そのためにぼくは生きていた。
(立松和平著「光の雨」)



光の雨
立松和平著「光の雨」は、連合赤軍の山岳ベース事件を中心に構成された作品であるが、いわゆる曰く付きの作品である。1993年8月号から集英社の「すばる」にて連載を始めたが、あまりにも当事者達の手記(坂口弘著・あさま山荘1972上下など)と内容が酷似している為、坂口の支援者から弁護士を通じ「盗作ではないか?」と抗議があり、立松氏も非を全面的に認め、1993年10月号をもって連載中止となった。

立松氏はその後、関係者に謝罪をしてまわった。

同世代の立場から、連合赤軍事件直後に書かれたような、抽象的、物語り的な小説ではなく、現実から逃げ出さずに、正面から連赤事件に向かい合いたいと思い何年も試行錯誤を繰り返す。

《「光の雨」は今まで書いたのは全部捨てて、やり始めます。時間はあまりにも経ったけど、僕も心朽ちてましたから。立ち直ってきたから、ようやくやれるなと思うんだけど、その朽ちた心で考えることも必要なんで。それは僕も救うし、坂口氏も救いたい、永田氏も救いたい、時代を救いたいという、この気持ちがいっぱいあって。でも自分を救うことなんでしょうね。他の人を救うなんておこがましい。それは「光の雨」っていうタイトルの中にほんとにこめられている。光の雨を降らせたい。
………僕は今度の事件では火の中に手入れたような感じがする。火の中に手を入れて何かをつかんだんだから、僕はこれはもう命に換えても書きます。》
(立松和平著「ドロップアウト」ドロップアウトインタビュー)

そして「すばる」の時とは全く異なったストーリーで、1998年に新潮社の「新潮」にて発表された。3月、4月、5月号で連載され、7月に単行本となり新潮社から発売された。
その後、2001年9月に文庫版も発売になった。



すばる版・光の雨
《1993年8月号》主人公・上杉和江
上杉和江が拘置所にいる最高指導者の三橋信之に面会に行く。しかしマークされている上杉は、面会後いつもしつこい私服の尾行にあう。その様子がリアルに表現される。何とか尾行をまいた上杉は、浦川秋子のアパートに逃げ込む。浦川は活動中に一人だけ逃げ遅れ、逮捕され供述してしまった。その結果、浦川の恋人であった山本始まで逮捕されしまい、その責任を負う為に山本とは会わせないという「権利停止中」の身だった。上杉は浦川の「権利停止」を解くことを条件に、指名手配中の浜田真二と夫婦を装い生活することを要請した。

《1993年9月号》主人公・浦川秋子
工場でバイトをしながら、浜田の生活を支える浦川の日常が描かれている。

《問題の1993年10月号》主人公・夏目洋太、月田てる子
羽田空港での侵入・火炎瓶投棄のことや、事件後に保釈で戻ってきた夏目と月田の同棲生活などが細かく描かれている。
実行前、実行中などの記述が確かに坂口の「あさま山荘1972」にそっくりである。恐らく連載中止まで追い込まれた要因は、坂口(星利一)の手記を引用したのに、あたかもそのまま夏目洋太が経験したこととして書いてしまったからでは無いかと思う。
(「あさま山荘1972」の羽田空港に於ける火炎瓶事件についての記述が、ほとんど夏目の目線になっている。実際も夏目(吉野)は実行犯の一人であったが、坂口の著書は当然坂口の目線で描かれている)

《「星さんが三橋さんに尋ねたんだ。滑走路上に火炎壜を投げて、航空機事故を起こしたらどうしましょうかって。そうしたら三橋さんの顔が厳しくなって、静かにいうんだ。死を恐れる革命家などあるものか。戦死を名誉と思うのだ。歴史に残るのだからな。あの時の声はすごみがあったな」
星が三橋に怒られたことが愉快だというふうに、夏目はてる子にいうのだった。
(光の雨)

新潮社版「光の雨」の主人公である玉井潔は、星利一の名で出てくるが、役どころは「三橋の手下=融通の利かない嫌な奴」という感じ。

《「それはわかるだろう。政治ゲリラ闘争をしなければならないこともわかるはずだ」
オルグのために六畳一間のアパートにやってきた星利一は、同居者の月田てる子がいるにもかかわらず部屋中に響き渡る声で夏目にいった。
(光の雨)

当事者の資料として、主要な事件に関わっていた坂口の「あさま山荘1972」を軸にせざるを得ないのは分かるが、「あさま山荘1972」が出版されてから1年も経っていなかったこともあり、坂口側から訴えられても仕方ない状況だったのだと思う。

2作品を比べると、困難を乗り越え現在の形に持っていったのだなと納得できる。


(立松和平さんは勇気のある人だと思います。それは連合赤軍事件と直接関わったからです。これは高橋伴明監督にも言えることですが、一番初めに難題に取り組むということは非常に難しく、どんなに忠実に作っても非難を浴びるからです。それを覚悟で描いた立松氏と高橋氏は単純な言い方ですが凄いと思います。
個人的に文章化、映画化を強く望んでいたからです。すばる版の光の雨を最後まで読んでみたかったです。)



手紙
盗作騒ぎがあり謝罪に奔走していた時、彼は永田、坂口からそれぞれ手紙をもらっている。
坂口への謝罪の手紙は「すばる」誌上で公にされた。

その後のインタビューより。
《坂口氏からも手紙をもらったし、永田氏からも手紙をもらった。やっぱり書いてくれとみんな言ってるわけです。そのために自分はできることは何でもするって言ってくれてる。
やっぱり僕もほんとにこれによってひとかどの物書きになれるかもしれないという気持ちです。》
(立松和平著「ドロップアウト」ドロップアウトインタビュー)



小説・光の雨

今から約30年後の「80歳・坂口弘」を主人公とし、アパートの、隣の部屋に住んでいる30年後の若者に向けて、自分の若い頃にあった事(一連の連赤事件)を聞かせていく内容になっている。
死刑囚の玉井が何故、娑婆に居るのかというと30年後には死刑制度が撤廃されている事になっているからである。

30年後の玉井は、あちこち体が痛くて「もう、先は無い。自分が死んでしまったら、あの事件の真実は消えてしまう」と思い、自分で総括しながら若者に語っていくわけである。亡くなった同志の為にも、自殺することは許されず、玉井は自分には病院で治療を受けることすら許されないと思い、いつも万年床で、夢の中の同志たちと話をするわけである。

ちなみに「玉井潔=坂口弘」という訳だが、ある時には自分達が強奪した銃になって喋ったり、女性指導者で、妻でもあった上杉になったりする。

玉井は上杉との関係について次のように語っている。
《かつて妻であった上杉和枝に対して愛憎が一定することはなく、この今でさえ揺れに揺れている。最後に会ったのが離婚を申し渡された時で、生き残った同志のうち死刑判決を受けたのが玉井潔と上杉和枝だけであってみれば、運命論者でなくても運命を思う。
…それからでも四十年がたつ。玉井潔は自分と同じように上杉和枝も釈放になり、世間の底で人目を忍んでひっそりと残りの生を紡ぎ、ほとんど同時に死んでいくという根拠もない確信があった。》
(立松和平著「光の雨」より)

その中でも、玉井の頭の中にしょっちゅう入り込んでくるのは倉重である。最高指導者だった倉重の存在に彼はいつも怯えている。しかし負けないように、潰されないように、倉重の言葉を一つ一つ検証し反論していく。山岳ベースで何も言えなかったことの反動のように。

これは実際の坂口弘著「あさま山荘1972」にも通じる部分がある。著書の中で彼は徹底的に、森の「自己批判書」を読み込んで、何故あのような論理が生まれたのかを解説しようと試みている。何故なら、共産主義化の為の「総括援助」は森の論理によって、あらゆることが決まっていったからである。

途中で、脱走したメンバーにタクシーを呼ぶように頼まれた商店主の、裁判での証言が出てきたりして興味深かったが、彼が語り聞かせた、30年後の若者達だけは、ちょっとなぁと感じた。玉井は最後に、話しきって(総括出来て)三途の川ならぬ光の雨に向かって歩いていくシーンで終わる。

足りない衣服も食料も、思想によって越えていかねばならない。
思想は万能の力を与えてくれる。それが革命戦士ということなのだ。
(立松和平著「光の雨」)



光の雨 RAIN OF LIGHT

2001年12月に公開された映画「光の雨」は高橋伴明監督、脚本青島武氏で、小説「光の雨」が原作になっている。玉井潔(池内万作が演じた)は25歳のままで、山岳ベースに居る。

30年後の若者達は姿を変えて(名前は使われている)登場する。設定は「光の雨」という小説を映画化しようとするドキュメンタリーという形で作られている。だから映画の中で映画を撮っている。総括のシーンは、迫力があってどきどきしながら見ていたが、途中で「カーット!」と声が入る。見ているこっちとしては「あぁ映画を作っているんだな」とホッとする。それの繰り返し。

しかし撮影中に監督(樽見)が「消えます、映画のために」という言葉を残して失踪してしまう。
その後、監督の代わりにメイキングビデオの監督をしていた阿南が、引継ぎ撮影を再開することとなる。

途中で兵士役を演じた役者がインタビューに答えたりしていたが、パンフレットについてくるDVDの方が、出来が良く思えた。DVDでは実際の役者が(玉井潔なら「玉井潔役の池内万作です」という風に)当時の連赤事件の事を質問され答えていた。上杉役の裕木奈江が、はまり役だったと思う。総括を要求する場面など本当に怖かった。実力のある役者だと思う。

原作では「光の雨」に向かって歩いていくのは玉井だが、映画では亡くなったメンバーたちが「光の雨」に向かって雪の中をラッセルしていく。山越えの途中、玉井は目の前を通り過ぎる彼らを発見し、全員の名前を呟く。監督の「死者を尊重し、癒されなければならないのは、玉井ではなく、死者たちなのだ」という思いが伝わってくるような気がした。

ぼくらは気がつくと方向違いの軽井沢の別荘地にいた・・・。
それから先は、みんなが知っている物語の通りだ。
みんなが知っているぼくらの物語はこの終わりから始まり、
そしてあの地獄のような日々に遡ったのだ。
・・・いつか、ぼくもあの光の雨の中に行くことができるのだろうか?
(高橋伴明監督「光の雨」玉井が山荘の窓ガラスを破り、ライフルを構えた時と玉井ラストの台詞より・写真上)

 

「光の雨」VIDEOパッケージ 2002年11月25日
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VHS/DVDレンタル版がレンタル開始(ジーピーミュージアム)
「光の雨特別編」DVDパッケージ 2002年12月21日 「光の雨特別編」DVDセル版発売(ハピネットピクチャーズ)4,700円
レンタル、DVD発売は以上のようになっているそうです。発売予定ですので、詳しくはカッコ内の発売元に確認をお願いします。2002.11上旬現在VHS/DVDレンタル版に関してですが、一部店舗でこのビデオも予約受付が始まっています。しかしレンタルショップで並ぶものと同じなので料金は高いです。DVDセル版は豪華映像特典付きだそうです。



登場人物

連合パルチザン(連合赤軍)
革命共闘(革命左派)   赤色パルチザン(赤軍派)
指導部 上杉和枝(永田氏)★ 27 裕木奈江 最高幹部 倉重鉄太郎(森氏)★ 27 山本太郎
指導部 玉井潔(坂口氏)★ 25 池内万作 幹部 及川厚志(坂東氏)★ 25 大和屋ソセキ
指導部 大沢守男(寺岡氏)★ 25 松田直樹 幹部 松村伸(山田氏)★ 27 西守正樹
指導部 夏目洋太(吉野氏)★ 24 山中聡 兵士 森中広志(植垣氏) 23 三上大和
兵士 五十嵐俊哉(S氏+岩田氏) 23 近藤大介 兵士 高田ゆみ(遠山氏)★ 25 高橋かおり
兵士 浦川秋子(大槻氏)★ 25 川越美和 兵士 田所良春(山崎氏)★ 25 恩田括
兵士 月田てるこ(金子氏)★ 25 板谷由夏 兵士 河村哲也(進藤氏)★ 22 白石朋也
兵士 宇野咲子(伊藤氏) 22 矢崎庸 兵士 新川次郎(行方氏)★ 22 金子貴俊
兵士 岡崎伸江(杉崎氏) 23 関川侑希  
兵士 矢崎マリ(山本氏?) 24 玄覚悠子 映画制作スタッフ
兵士 戸張真(加藤氏)★ 22 大柴邦彦 メイキング
監督
阿南満也★名前のみ 33 萩原聖人
兵士 戸張善二(加藤弟氏)★ 19 一條俊 映画
監督
樽見省吾 52 大杉漣
兵士 北川準(尾崎氏)★ 22 蟹江一平 プロ
デューサー
大山賢一 52 塩見三省
兵士 谷口淳子(小嶋氏)★ 22 西山繭子  
兵士 赤津利和(山本氏)★ 29 佐藤貢三 その他
兵士 黒木利一(向山氏)★ 23 鳥羽潤 革命共闘 浜田真二(柴野氏)★ 交番襲撃
兵士 今村道子(早岐氏)★ 22 小嶺麗奈 革命共闘 山本始(W氏)★ 交番襲撃
獄中
最高幹部
三橋信之(川島氏)★ 29 金山一彦 革命共闘 安井、北村など 銃砲店襲撃

カッコ内は、モデルとなった実在の組織・人物と思われる部分。
★印は、原作(小説「光の雨」)にも登場する人物。



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