| 朝 |
起床 |
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また朝がやってきた。十九日以来の、このどうしようもない感情、うさ晴らしに酔うだけ酔って、すべてを嘔吐し忘れた方がよかったのかもしれない。 |
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| 11:30 |
のんびりしたい気持ちと、闘争参加の間で揺れ動く。 |
好きなレコードをききながら、毎日を独りで過ごすのもいいですが、生活費だけはアルバイトで稼ぎ、自分の時間は好きな詩を読んだりレコードを聞いたり、そして時には旅に出たりするという生活もよい。
けれども闘争のない生活は、空気の入っていない風船、タマの入っていない銃、豆腐の上にのせたコンニャク、からっぽの膣、空中に向って出された陰茎……ではないでしょうか。「闘争か、血みどろの闘争か、それとも死か」という言葉があります。どこかでそんな言葉をよんだことがあります。 |
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あなたと二日の休日をすごしたい。
一日目―夜の暗さをネオンが寂しくつつむ酒場の狭い路地で、あなたを待つ。私の体をアルコールでずぶ濡れに洗い流し、私の醜さと美しさ、あらゆるものをアルコールで溶かし去り、ただあなたの安らかな寝息のそばで眠る。
二日目―疲れた体をおこして、すっかり陽の高くなった街に出て喫茶店に入る。煙草のかぼそい、むなしい煙のゆらめきを眺めながら、ベートーベンの「悲愴」とあなたの好きなブラームスのピアノ協奏曲第一番、それに私の好きなジャズをきく。ステーヴ・マーカスの「明日は知らない」とアートブレーキーの「チュニジアの夜」、そして最後の別れとして、マハリァ・ジャクソンの力強いゴスペルソングをきく。 |
ベストセラーとなった大島みち子著「若きいのちの日記」(愛と死をみつめて)が頭に浮かんだのではないだろうか。文中の喫茶店のモデルは、やはりしあんくれーる?
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その夜、再びあなたと安宿におちつこう。そして静かに狂おしく、あなたの突起物から流れ出るどろどろの粘液を、私のあらゆる部分になすりつけよう。血とくその混沌の中を裸足で歩いていくように、あなたの黒い粘液を私になすりつけよう。そして次の朝、静かに言葉をかわすこともなく別れよう。それから私は、原始の森にある湖をさがしに出かけよう。そこに小船をうかべて静かに眠るため。 |
この“あなたとは”訣別したばかりの中村と、理想の男性(実在しない)だと思われる。「その夜、再び」から始まる一文は、最後の詩への伏線となっている。
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| 12:00 |
ラジオを聞きながら、放送されたニュースの内容をノートに
写す。 |
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十二時のニュース 名古屋郵便局に機動隊を使って郵便自動読取機を備え付ける。新宿で貨車が脱線、反対側に倒れたら去年八月の米タンク車の大惨事になるところでしたという。六・一五の違法デモのかどで(公安条例違反)全逓の労働者二名逮捕。安保条約の期限を一年後にひかえ、同条約をめぐるさまざまな動きを機械的な口調でアナウンサーはつづける。 |
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| 13:00 |
日大全共闘の「生きてる 生きてる 生きている バリケードという腹の中で…」
をもじって書く。 |
生きてる 生きてる 生きている
バリケードという腹の中で 友と語るという清涼飲料をのみ
デモとアジ アジビラ 路上に散乱するアジビラの中で
風に吹きとび 舞っているアジビラの中で
独り 冷たいアスファルトにすわり
煙草の煙をながめ
生きている イキテイル |
生きてる 生きてる 生きている
バリケードという腹の中で
生きている
毎日自主講座という栄養をとり
”友と語る”という清涼飲料剤を飲み
毎日精力的に生きている
生きてる 生きてる 生きている
つい昨日まで 悪魔に支配され
栄養を奪われていたが
今日飲んだ”解放”というアンプルで
今はもう 完全に生き変わった
そして今 バリケードの腹の中で
生きている
生きてる 生きてる 生きている
今や青春の中に生きている
(日大全共闘)
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機動隊になぐられ 黒い血が衣服を染めよごしても
それは非現実なのか!
おまえは それを非現実というのか!
しかし何といわれようと 私は人を信じてはいないのだ! |
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警察官総数八万四千人
十万の人をもってすれば自衛隊はうち疲れる
しかし その十万人の人とは一体何なのだ |
この後、アルバイトへ出掛けた。
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23:15 |
バイトから戻り、早速ノートへ向かう。 |
バイトを終えて独り部屋で
ジャズをきくと楽しくなる。それが唯一の楽しみだ。
バイト先では私は皮肉と悪口ばかりいっていた。これじゃ誰からも嫌われるのは当然です。+ |
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このノートに書いているということ自体、生への未練があるのです。ところが、では生きていくことにして何を期待しているのかといえば、何もないらしいということだけいえる。
私が死ぬとしたら、ほんの一寸した偶然によって全くこのままの状態(ノートもアジビラも)で死ぬか、ノート類および権力に利用されるおそれのある一切のものを焼きすて、遺書は残さずに死んでいくかのどちらかであろう。 |
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買ってきた睡眠薬は不眠症には二錠が適量だという。それでは「不信症」には何錠がよいのだろうか。長期的治療には毎日三錠一ヶ月服用のこと、短期的治療には一時に三十錠、そうすればあなたの「不信症」は治ります。副作用のない安全な睡眠薬、赤ちゃんでも老人でも安心して飲める新しいタイプの睡眠薬、あなたも飲んでみませんか。九錠で一四〇円、二十錠入った御徳用もございます。 |
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| 23:45 |
市販されている睡眠薬20錠を飲み始める。 |
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何のことはない五ミリ位の小さな粒である。こんなものはいくらでも飲めると、内心ではコワゴワ、一錠一錠と口に入れた。十一時四十五分であります。 |
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| 23:46 |
経過報告 |
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ぼんやりしているのももったいないから本でも読もうか。十一時四十六分であります。 |
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| 23:50 |
経過報告 |
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なんとなく落ち着かない。十一時五十分であります。 |
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| 23:52 |
経過報告と自分の本の背表紙を読み上げる。 |
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目覚まし時計をかけるべきか否かと考えて時計をみたら、九時三十五分でストップそのまま。十一時五十二分であります。 |
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人間に対しては沈黙あるのみなのに、今日バイト先で悪態ばかり言っていた。まじめな受け答えじゃなかったのがせめてもの救い。 |
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沈黙は金! |
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睡眠薬にうちかって眠らずにいることができるかどうか、いっちょ試してみっか。 |
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机の上に重ねられた「黒の手帖」が寂しげにこちらをみている。「アウトサイダー」は不敵に超然としてこちらをみている。「アジア・アフリカ現代詩集」「中国現代詩集」はカッキリと本立てに背すじを伸ばしてこちらを見ている。「山本太郎詩集」は前のめりになって私を招いている。「第二の性」は奥深く並んでいるけれど、無表情でチラッとみるだけで、あとはこっちでお断りしている。 |
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| 00:05 |
6月23日になる。経過報告(20分経過)と「シアンクレール」での話など。 |
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二十分たったというのにまだ眠くならないのだ。十二時五分であります。 |
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きのう「シアンクレール」にいたら女の子が話しかけてきた。話がはずんでサイクリングに行こうということになった。琵琶湖にいくことになった。しばらくジャズを聞いたあと私は言った。「私やめるわ。一週間も先のことどうなるかわからないし」あの女の子とつきあっていたら、いつしか裏切るようなことをするのがわかっていた。人間のつきあいには必ずウソがある。すべて流れゆく旅人の気持で こよなく彼を彼女を愛して通り過ぎてゆくのがよいのだ。「一週間も先のことはわからない」。全くもって正しいことであった。 |
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今や何ものも信じない。己れ自身もだ。この気持は、何ということはない。空っぽの満足の空間とでも、何とでも名付けてよい、そのものなのだ。ものなのかどうかもわからぬ。
二十錠のんでも幻覚的症状も何もおこらぬ。しいて言えば口と胃が重たくなった程度。こんな睡眠薬ってあるんだろうか。といっても恐れる気持などサラサラない。本当に何もないのだ。雨の中につっ立って、セーターを濡らし、その髪の滴が顔に流れおちたところで、どうということはない。
何もないのだ。何も起こらないのだ。独りである心強さも寂しさも感じないのだ。彼が部屋で静かな寝息をたてて眠っているだろうと思ったところで、一体それが何なのか。あるいは彼女といっしょに肉体を結び合っていたところで。もし私が彼といっしょに「燃える狐」の情感をたぎらせていたとしたら。 |
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| 02:30 |
雨が強く降りだす。睡眠薬
が全く効かない。早く眠りたいと思う。 |
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雨が強く降りだした。どうしてこの睡眠薬はちっともきかないのだろう。アルコールの方がよっぽどましだ。早く眠りたい。二時三十分、深夜。 |
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旅に出よう
テントとシュラフの入ったザックをしょい
ポケットには一箱の煙草と笛をもち
旅に出よう
出発の日は雨が良い
霧のようにやわらかい春の雨の日がよい
萌え出でた若芽がしっとりとぬれながら
そして富士の山にあるという
原始林の中にゆこう
ゆっくりとあせることなく
大きな杉の古木にきたら
一層暗いその根本に腰をおろして休もう
そして独占の機械工場で作られた一箱の煙草を取り出して
暗い古樹の下で一本の煙草を喫おう
近代社会の臭いのする その煙を
古木よ おまえは何と感じるか
原始林の中にあるという湖をさがそう
そしてその岸辺にたたずんで
一本の煙草を喫おう
煙をすべて吐き出して
ザックのかたわらで静かに休もう
原始林の暗やみが包みこむ頃になったら
湖に小船をうかべよう
衣服を脱ぎすて
すべらかな肌をやみにつつみ
左手に笛をもって
湖の水面を暗やみの中に漂いながら
笛をふこう
小船の幽かなるうつろいのさざめきの中
中天より涼風を肌に流させながら
静かに眠ろう
そしてただ笛を深い湖底に沈ませよう |